(2012 Jan 21) キープ・クール・フール blog publishes 'Post-chillwave album guide ~Dark Witch House Edition'

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zin
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(2012 Jan 21) キープ・クール・フール blog publishes 'Post-chillwave album guide ~Dark Witch House Edition'

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キープ・クール・フール (Keep Cool Fool) is a Japanese music blog

Original link:
http://blog.livedoor.jp/summerbreeze1/a ... 13844.html
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ポスト・チルウェイヴ的アルバム・ガイド~暗黒のウィッチハウス編

2012年01月21日 13:55
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黒、夜、過去、冷たさ、怪物、異端、悪、死の表現、頽廃的なもの、あるいは一転して無垢なものへの憧憬、様式美の尊重、両性具有、終末観、別世界の夢想、アンチ・キリスト、アンチ・ヒューマン。 高原英理『ゴシックハート』で長々と羅列されているように、ゴシックとはある種の美意識、感性のことである。それはひと言では言い表すことができない体系をなしているが、エドマンド・バークによる美学概念=崇高美(サブライム)はその特徴の重要な面を言いあてている。サブライムとは、「透明感に満ちた明るい美しさとは正反対の(中略)美学概念」であり、「なにかしら壮大な景観を目撃したときに感じる、黒々とした不安に満ちた恐ろしさ、戦慄が走るような美しさのこと」(小谷真理『テクノ・ゴシック』)である。

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オカルトとは、端的にいえばアンチ・キリストの思想だ。「キリスト教文化から迫害され、あるいは少なくとも煙たがられた古い信仰や宗教思想(中略)を蘇生させたいという欲求」「非キリスト教的な救済手段(中略)を発見し、習得したいという欲求」(ミルチア・エリアーデ『オカルティズム・魔術・文化流行』)である。例えば、EW&Fやサン・ラーなど、アフロ・フューチャリズムの面々や、あるいはNRKが象徴的に扱っている ピラミッドには、前キリスト教的意味合いがあるはず(メンバーのKC2.0のTumblrは「HEART OF OSIRIS」。オシリス神話は古代エジプト神話。その父は太陽神ラー、つまりサン・ラーだ)。

ウィッチハウスはチルウェイヴ以上に定義が曖昧なジャンルだが、最低条件となっているのはこのゴシック/オカルト的要素の有無だ。逆にいえば、リリースがここ最近でそのような要素を持つものはすべて入りうるわけだが、ここではポスト・ダブステップとポスト・チルウェイヴの間に浮かぶ、耽美なダンス・ミュージックについてみていきたい(他のも気になる方はバンドキャンプのページをどうぞ)。その全体像を手早く掴むには、コンピレーションJésus va à la casa de brujas(上記ジャケ)がいい。ポルトガルのブログ「JÉSUS AVEC PAS DES PANTALONS」が2010年4月にいち早く編んだもので、Salem、oOoOO、White Ring、Mater Suspiria Vision、Modern Witch、Balam Acabなど、主要アーティストが網羅されている。いずれも異形で奇怪で不気味。しかし、その漆黒の闇の奥には、チルウェイヴの音響とダブステップのビートへの憧憬が透けて見えるだろう。

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偶然にも同時的に、チョップト&スクリュードをヒントにしてBPMを落としたポスト・チルウェイヴとポスト・ダブステップをうまくつなぎ合わせ、そこに(やはりチョップト&スクリュードに着想を得たと思われる)オカルト/ゴシックな要素を加えたそのサウンドは、最新モードのハイブリッドである。

嚆矢となったと言われているのは、ミシガンのSalem。アメリカにおいて唯一魔女裁判が行われた悲劇の土地を名前に冠したこのバンドは、2008年EP『Yes I Smoke Crack』でデビュー。2010年のKing Nightで脚光を浴びた。魔女裁判はキリスト教の異端審問の流れを汲むもので、キリスト教に対する狂信的信仰が生んだ中世ヨーロッパ最大の悲劇である。魔術、妖術、悪魔礼拝などを行った罪で捕えられた魔女たちは、拷問に次ぐ拷問により嘘の自白を強いられ、すべて火焙りの刑に処された。生きながら焼かれることもしばしばだったようだが、魔女が火刑にあったと思しき十字架をジャケットにあしらったこのアルバムは、彼らのアンチ・キリスト思想、オカルト的美意識が強く表れている。


King Night by SALEM official

リヴァーブをかけられた女性ヴォーカルは魔女、おどろおどろしい男性ヴォーカルは悪魔か。前者がチルウェイヴの影響であるのならば、後者はチョップト&スクリュードのそれだが、ここで気になるのはオカルト志向と“オカルト・ヴォーカルの発見”と、どちらが先だったのかということ。つまり、もともとオカルトの要素を持った音楽をやろうとしていてそこに発見したオカルト・ヴォーカルを合わせたのか、そうではなくチョップト&スクリュードが付随的に生み出した遅いヴォーカルにオカルトを見出してサウンド全体のトーンを作っていったのか。後者だったらおもしろい。「声」によって全体のサウンド・カラーが決められていくということだから。ポピュラー音楽史をみても、そうないことではないかと思う。いずれにせよオカルト・ヴォーカルを発見し、おどろおどろしいサウンドの肝としたことは、ウィッチハウスだけでなくヒップホップへ与えた影響は大きい。「Trapdoor」や「Sick」、「Tair」といったラップがのる曲は、ウィッチハウスを参照するヒップホップとほとんど境がない。なお、彼らの「Asia」には同じくウィッチハウスの代表格、oOoOOによるリミックス・ヴァージョンもある。


SALEM - Asia (oOoOO Remix) by DNAlvarez60

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Salemがオリジネイターだとすれば、シーンを拡張したのはTri Angle Records。主催者Balam Acab『Wander / Wonder』はウィッチハウスのなかでも最も美しい一枚だ。ダブステップ、チルウェイヴ、ヒップホップを混ぜ合わせる手法は他のウィッチハウスのアーティストと同様だが、Salemがそのオカルト的志向に従って各要素の毒っぽさを強調したのに対し、バラム・アカブは極めて繊細だ。深い闇に差す細い光の筋をひとつひとつ丁寧に手繰り寄せるような音作り。リヴァーブやストリングス、その他のエフェクトを巧みに使い分けてアカブが描きだす闇には、濃淡が、深さが、温度がある。その一様ではないダークネスがアカブのゴシック感覚によるものならば、手繰り寄せられた光芒はR&Bだ。まわりになじむように淡く加工されたロマンティックな旋律は、ビロードのような気高い艶を放ちながら闇と同化していく。異なる種類の”黒”が境目なく混じり合うさまは、崇高で美しい。


Motion / Balam Acab


Now Time / Balam Acab

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このバラム・アカブに影響を与えたのが、バラム・アカブのラヴ・コールに応えてTri Angle Records入りしたHow To Dress Wellだ。 HTDWについてはこのブログで何度も取り上げているので詳述しないが、彼の音楽の肝はR&Bであり、リヴァーブを極限まで深くかけ、チルウェイヴ的ともいえる音響も、線の細い彼のヴォーカルでR&Bを歌うための手段にすぎない。12月の来日公演も観に行った。会場のSEをすべて担当し、R&Bやヒップホップをせわしなくかけるその姿はただのブラック・ミュージック・マニアであり、ステージでオケをバックに、目を瞑り、胸をかきむしりながら(僕には乳首を触っているように見えた)熱唱する姿には彼の本質を見た気がした。

彼のデビュー作『Love Remains』にはR・ケリー「I Wish」をベースにした「Ready For The World」という曲が収録されているが、それに限らず、HTDWならではのダークで歪、かつ崇高なゴシック感覚とブラック・ミュージックへの偏愛が、どの曲からも強烈に感じられる。ゴシックといえば、先のライヴでは、大野一雄の映像をバックに歌うシーンもあった。大野をモチーフにした、といえばアントニー・へガティ。ただ、HTDWがそこに持ち込んだのがR&Bだった、という違いだけで、 ふたりは根が同じだ。最新EP『Just Once』では、『Love Remains』収録曲のオーケストラ・ヴァージョンが聞けるが、これでアントニーを思い起こすのは容易だろう。


Ready For The World / How To Dress Well



話は逸れるが、僕はHTDWの音楽をアンビエント・ソウルと呼んでいる。便宜的な名称で、別になんでもいいのだが、要は チルウェイヴ的な音響とウィッチハウス的なゴシック感覚を持った歌モノ のことだ。チルウェイヴもウィッチハウスも、ヴォーカルは深くエフェクトがかけられている。それはリヴァーブでもチョップト&スクリュードでも同じことで、加工された「声」はシンセ同様、曲をゆらゆらと包み込む素材のひとつでしかない。それに対し、HTDWら、アンビエント・ソウルとここで呼ぶものは、やはりエフェクトで加工はされているものの、ヴォーカルはヴォーカルであり、徹底して歌モノなのである。ここの違いは意外と重要だ。インストと歌入りの違いくらいの開きがある。

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HTDW直系といえばシドニー出身のGuerreだが、ベルリンを拠点に活動するoFF LoveもHTDWと並べて語っていいひとりだろう(実際に友人でもあるようだ)。トレードマークは「♡」、常に覆面をしているミステリアスな人物で、彼のミュージック・ヴィデオはどれも甘美で妖艶な魅力に溢れている。また、彼はCocorosieのBianca CasadyとGAY MORMON KISSING CLUBというDJユニットを組んでおり、そうしたつながりからもその独特な美的感覚が推し量れるだろうかと思う。これまでに数枚のEPを発表。バンドキャンプを見ると、全ての作品に”R&B”とタグ付けがあるように、やはりR&Bを強く意識した音楽を作る人であり、ヴォーカルにはすべてエフェクトがかけられているが、官能的なメロディーで愛を歌う姿はR&Bシンガーそのものだ。一方で、彼のデビューEP『S E C R E T』がTri Angle Recordsと並ぶウィッチハウスの代表的レーベル、DISARO Recordsからリリースされていたり、ウィッチハウスの代表的なアーティストの一人でもあるGR†LLGR†LLとも連名でEPを出していたりと、広くそのシーンと交流のある人でもある。つい先日リリースされた待望のデビュー・フル・アルバムProbably Loveも、HTDW的なアンビエント・ソウルあり、Tri Angle的なウィッチハウスありの内容で、その耽美(乙女)なゴシック感覚をもとに、R&Bからウィッチハウスまでをつなげてしまうかのようだ。

o F F LoveはFantasy Musicというレーベルも主催しており、そこに所属するButterclockという女性シンガーも要注目だ。Laura Clockによるソロ・ユニットであるButterclockはまだEPすらリリースしていないが、soundcloudに数曲をアップしており、oFF Love同様、どの曲も妖艶な魅力を放っている。特に面白いのは、Tri AngleのoOoOOをフィーチャリングした「Hustling」。これはラッパーのRick Rossのカヴァーだが、完全にウィッチハウスに仕立てられており、両者の近さを物語る一曲だ。


Probably Love by o F F Love


Hustling / Butterclock feat. oOoOO

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話が飛んでしまったが、Tri AngleではほかにHoly OtherとoOoOO(オー)が必聴だ。Holy Otherはダブステップ色の強いユニットで、『With U』は色気のある硬質なビートがクールな一枚。一方、女声ヴォーカルを始め、加工されたヴォーカルを多用するoOoOOはもっと米ブラック・ミュージック的な性格が強く、『oOoOO EP』収録の「Heart」などはエレクトロも思わせるシンセ・ファンクに仕上がっている。また、Tri AngleでClams Casinoの次にラッパーに参照されることが多いのがこのoOoOOで、その点でも重要だといえる。oOoOOがアメリカのサイト、Altered Zonesに提供したミックス「Altered Zones Mix」というのもある。クリスティーナ・アギレラからStill Cornersまで、幅広い選曲が面白い。


Touch / Holy Other


Heart / oOoOO

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oOoOOは、Tri Angle以前に、oFF Loveも所属していたDISAROから一枚EPを出している。ウィッチハウス系のレーベルの中でも早くから注目されていたDISAROはここのところ完全にTri Angleに抜かれてしまったという印象だが、昨年12月にリリースされたORIG∆MI『Memories EPは良かった。不気味でおどおろどろしいウィッチハウスではなく、基本的には夢見心地なチルウェイヴで、スパイス程度にオカルト要素が使われている。このバランスはなかなか気持ちの良いもので、例えばGrimesなんかはこの手のアーティストだ。Claire Boucherのソロ・ユニットであるGrimesの音楽は、浮遊感のあるローファイ・シンセ・ポップに、いわゆる「ゴス」的なだけではない、どこか中南米のアートを思わせる、毒々しく、魔術的なオカルト/ゴシック感覚を散りばめたもので、一度聞くと病みつきになる。『Geidi Primes』『Halfaxa』レーベルのサイトからドネイトorフリー・ダウンロードできるのでぜひ。3枚目のアルバムもそろそろ発売になるはずだ。


Grimes - Vanessa (Arbutus/Hippos and Tanks 2011) from Grimes69 on Vimeo.

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